福岡家庭裁判所 昭和41年(家)1703号 審判 1967年3月23日
申立人 長田温子(仮名)
相手方 長田将夫(仮名)
主文
当庁昭和三四年(家イ)第五三八号申立人、本件申立人、相手方本件相手方間の婚姻費用分担申立事件の調停調書第二項を次のとおり変更する。
「相手方は申立人に対し、長男透の生活費として昭和三五年一月から同四一年一〇月六日まで毎月三、〇〇〇円、申立人および長男透の生活費として同四一年一〇月七日から前項別居期間中毎月一万八、〇〇〇円づつを各月末日までに福岡家庭裁判所に寄託して支払う」
理由
本件申立の趣旨
昭和三四年(家イ)第五三八号婚姻費用分担調停調書中第二項の「一ヵ月三、〇〇〇円」とあるを「一ヵ月一万円」と変更する。
相手方は申立人に対し、申立人の生活費として別居期間中一ヵ月一万五、〇〇〇円を毎月末限り福岡家庭裁判所に寄託して支払え」との審判を求める。
申立理由の趣旨
申立人と相手方は夫婦で昭和三五年一月一八日当事者間に「当事者双方は当分の間別居し、相手方は申立人に対し、昭和三五年一月から右別居期間中長男透の生活費として一ヵ月三、〇〇〇円づつを毎月末日限り支払う」旨の調停が成立した。
ところが、その後物価が高騰した上申立人は昭和三九年五月から一年七ヵ月結核で入院し、現在自宅療養中で未だ職につくこともできない状況であるため、生活はかなり困難である。
従つて相手方に対し、前記調停による長男の生活費一ヵ月三、〇〇〇円を一万円に増額し、あわせて申立人自身の生活費として一ヵ月一万五、〇〇〇円を支払うことを求める。
当裁判所の判断
戸籍謄本、当庁昭和三四年(家イ)第五三八号申立人、相手方間婚姻費用分担調停事件調書謄本、申立人、相手方各審問の結果(第一、二回)、調査官の調査報告書によると、次の事実を認めることができる。
申立人と相手方は昭和二六年一〇月一六日に婚姻した夫婦であつて、その間に長男透(同二八年六月二日生)がある。
申立人と相手方は相手方が肺結核で入院していた病院の看護婦申立外田島保子と親しくなつたこと、及び双方の気も合わなかつたこと等が原因して昭和三三年頃から別居を続け、その間相手方は申立人に対し離婚を求めたが、申立人はこれに応じないまま現在に至つている。
(相手方は申立人に不貞行為があり、これが別居の原因であると主張するが、右主張事実を認めるに足る証拠はない)、
申立人は昭和三四年に当裁判所に対し、相手方を相手取り、婚姻費用分担の調停申立をし、その結果申立人は健康で働いており、相手方は病後生活も安定しなかつたことも考慮され、同三五年一月一八日相手方は申立人に対し長男透のみの生活費として昭和三五年一月から毎月三、〇〇〇円を支払う旨の調停が成立し、右金員の支払は現在まで履行されている。
相手方は別居後今日まで、看護婦として働いている前記田島と同棲を続け、申立人は相手方入院当時からダンス教師をして長男透と一緒の生活を続けていたが、昭和三九年五月肺結核のため結核予防法第三五条により強制入院措置を受け同四〇年一二月まで費用国庫負担で入院した。その間申立人は透を相手方の兄に預けたが退院後再び透を引取り、無収入のまま一緒に暮している。右に認定の事実によれば、相手方は婚姻費用の分担として申立人に対し、申立人および透の生活を夫として自己の収入、地位にふさわしい程度に保障すべき義務があるものと認めるのが相当である。
よつて、前回の調停できめられた透のみの生活費としての三、〇〇〇円の額が右の婚姻費用の分担としては現在でも相当であるかどうかについて判断する。
前掲証拠および株式会社○○○福岡支店長○○○○作成の賃金台帳によると、相手方は現在株式会社○○○福岡支店に課長として勤務し、同四一年八月以降平均月収四万五、〇〇〇円位を得ている。これに対し、申立人は前記のとおり、肺結核にかかり現在も自宅療養で職に就くことができないので相手方からの前記送金のほかは他から借金し、かろうじて生活をして居り、結核予防法第三四条にて診療を受け月額五〇〇円ないし八〇〇円程度、レントゲン撮影を受けるときには、以上のほかに一回一、〇〇〇円を要する。透は現在中学一年に在学している。
以上の事実が認められ、右事実によれば、前調停で定められた月額三、〇〇〇円の金額は著しく低額であると認められる。そうして前記に認定の双方の生活状況、殊に申立人の健康状況、別居の経緯期間等諸般の事情に照らすときには現段階において相手方が申立人に対して分担すべき生活費の額は申立人、透の分として各自九、〇〇〇円計一万八、〇〇〇円をもつて相当と認める。
尚右三、〇〇〇円を一万八、〇〇〇円に増額すべき始期については記録により右増額請求の意思表示が相手方に到達したものと認められる日(第一回調停期日)の翌日である昭和四一年一〇月七日とするのが相当である。
従つて前件調停調書第二項中「長男透の生活費として昭和三五年一月から前項別居期間中毎月三、〇〇〇円を各月末日までに支払う」とあるのを「昭和四一年一〇月七日以降別居期間中申立人および長男透の生活費として毎月一万八、〇〇〇円づつ支払うこと」尚「右支払は福岡家庭裁判所に寄託して支払うこと」に変更することとする。そうすると相手方は右のとおりの金員を支払うべき義務あるところ、昭和四二年二月までの分(但し月額三、〇〇〇円の支払については毎月履行しているのでその差額)について履行期が到来しているので右金員については即時に支払うべきものと認める。
よつて、主文のとおり審判する。
(家事審判官 丹宗朝子)